こうして夜を過ごすは何度目だろうか。そしてこれから何度、夜明けを迎えることが出来るのだろうか。長い間の戦いでもう随分と人は減り、賑やかに騒ぐ声もほんの疎らなものになってしまった。寂しい光景ではあるが、新たな敵によりミズガルド全土が炎に包まれつつある中で、尚これだけの数が残っているのは奇跡とも言えるのかもしれない。しかしその奇跡も長くは続かないだろう、夜が明ければ彼らはアスガルドへ旅立ち、最後の決戦に挑むつことになっていた。
一握りとも言える数に減じてしまった自らの民を、シグムンドは眺める。そして同じように少なくなった、他の国の者達を。北の地、ブルグント、ゴート、全ての国の生き残りをかき集めた今の軍は、数でいえば千人を下回る。当然全てが戦闘員で、女の姿など片手で足りる程しか無い。人類は滅びると、ブルグントの誰かが言っていたのだが、それを否定できる者はこの場に居なかった。
「シグムンド」
「フレイか。どうした」
そして人に未来が無いのと同じに、神もまた滅亡に向かいつつある。武に名を馳せた雷神も、長たる主神も倒れ、残されたのはほんの僅かな戦力のみ。残った霜と炎の巨神を薙ぎ払い、この世界の未来を繋げるには、あまりに力が足りない。
そんな状況だからだろうか、フレイの目の奥には、諦念に似た静かな光が宿っていた
絶望とは違う、進む先に道が無いことを知った上でそれでも歩を進めようという、密やかだが揺るぎない決意だ。ロキを前にして膝を折った彼だが、今は別人のように堅い意志を持っているように見える。それは残された数柱の戦神となってしまった故か、あるいはこれまでに潜り抜けた戦いによって培われた強さなのだろうか。
「どう、ということはない。ただ話がしたかった、落ち着いて話す機会など、この先もう無いだろうからな」
「そうだな、確かに」
アスガルドへの道、虹の橋ビブレフトは、もう彼らの目の前にある。明日この橋を渡ればもうアスガルドに入る、そうなれば命を落とすまで戦い続けるのみだ。こうして並んで火を囲み、静かに言葉を交わすだけの時間が取れることはもう無いだろう。フレイはそのままシグムンドに近づき、その隣に腰を下ろした。シグムンドも拒むことはしない、ただ二柱ミズガルドに残った神の片割れを、当然のものとして受け入れる。
座り込んだフレイは、直ぐには話そうとせず、しばらくの間沈黙を保っていた。口を閉ざしたまま、隣のシグムンドと同じに、疎らになってしまった人々の影を見渡す。神が人を護るものだという幻想は、加護を得られぬ戦いの中で、人の中から薄れて消えかけていた。だがこうして戦士達を眺めるフレイの横顔には、失われた崇拝と敬意を蘇らせる、気高い誇りが感じられる。
「感謝と、謝罪を伝えておかねばと思った」
ふいに語りだしたフレイに、シグムンドは虚を突かれて目を瞬かせた。間抜けな顔を晒すシグムンドを、フレイは笑いもせず、真正面から見据える。
「アスガルドに来ると言ってくれたことへの感謝。そして、神々の戦いに巻き込んでしまったことへの謝罪だ」
「――ああ」
繋げられた説明に、シグムンドも得心して頷いた。だが動きを途切れさせぬまま、続けてその首を横に振る。
「必要ない、戦士は戦いの中で生き、死ぬ。祖先も皆そうしてきた、俺も戦士として、一族の者達と道を共にしたまでだ」
「だが、それは神々が人に教えた生き方だ。巨神との戦いで、人を神の防壁とするために」
語るフレイの美しい顔には、僅かな感情も表されぬ、壮麗な無表情が保たれている。だがその底にどんな思いがあるか、シグムンドには察せられる気がした。彼とは随分長くを共に過ごした、整った顔立ちの内にある繊細な優しさを、今ではシグムンドもよく知っている。
だからシグムンドは、フレイの懺悔を受け止め、そして軽やかに首を横に振った。
「いいや。北の民が戦士たるのは神のためではない、己の誇りのためだ」
「だが」
「神々の導きが無くとも、俺達はきっと戦った。皆、戦いしか頭に無いような奴らだ、他の生き方を選ぶ筈も無い」
そう言って笑えば、フレイは言葉を返さず、静かに視線を伏せた。考え込むような、あるいは祈りを捧げるかのような、静謐な沈黙が落ちる。誰かが上げる喧噪が、遠くから聞こえてきた。そんな時間が、どれくらい続いていたのだろうか。
「ならば、謝罪はすまい」
やがてフレイは目線を上げ、再びシグムンドを見詰めた。射抜く強さの視線は、傍から見れば怒りのものとも感じられるが、そうではない。そうではないことが、シグムンドには分かっていた。
「だがやはり、私はお前に感謝しよう。ミズガルドを離れ、私と共に戦ってくれることを」
「ああ」
強い眼差しに込められているのは、彼の決意であり、同時にシグムンドに対する信頼だ。言葉で語られぬそれを、シグムンドは過たず理解し、そしてはっきりと頷いてみせる。
「お前が感謝するように、俺もまた感謝しよう。お前と共に最後まで戦える運命を」
戦いに死ぬことは、戦士として望むべきことだ。だがそれが一人だけの道程とならないならば、より一層喜ばしい。信頼を預けあった神と背を合わせて戦う、ミズガルドの戦士としてこれ程誇らしいことがあるだろうか。
「有り難う、シグムンド」
「感謝するのは俺もだと言っただろう、フレイ。神がそう簡単に頭を下げても良いのか?」
「構わないさ、神々ももう、数えるほどにしか残っていない。細かいことに煩い神も、全て居なくなっている」
フレイが、絶望するのは飽きたとでも言いたげな様子で、清々しく笑う。出会った当初とは随分変わった印象に、言及すればきっと、きっと人と居た影響だと返すのだろうが。
「そうか。お前がそう言うなら、そうなのだろうな」
答えの分かっている問いを、敢えて投げる必要も無い。シグムンドも余計なことは語らず、ただ静かに笑ってみせた。
「――さて。そろそろ時間だ」
交わした笑顔の上に、少しだけ寂しげな色を乗せて、フレイが呟く。だがまだ休む刻限ではない、何の制限があるのかと疑問を訴えるシグムンドに対して、フレイは黙って視線を動かしてみせた。つられてシグムンドが目を遣れば、そこに居るのは地に降りた神の片割れだ。
「あまりお前を引き留めては、妹にもお前にも申し訳が立たない。このあたりで引き上げるとしよう」
「おい、フレイ」
「シグムンド、最後にお前と話せて良かった」
夜闇の中でも輝いて見える程の美しさ、それが故に常に男に囲まれていた女神は、今はただ一人で時を過ごしている。微笑みを消し、兄によく似た静かな無表情で闇を見詰める姿は、かつて戦場で見た光景を想起させた。
「妹を、よろしく頼む」
「頼まれても困る、俺は人間だ」
「神だの人だのは関係ない。そう言っていただろう、自らの言葉を忘れたか」
血と誇りにまみれ、光を失いながらも、誰に縋ることもせず巨神に立ち向かっていた姿を。それが彼女だと、神という殻に包まれた真実の彼女自身だと、そう語ったのは確かにシグムンドだったのだが。
返す言葉が見つからず、黙り込んでしまったシグムンドに、フレイは軽く笑ってみせる。
「行くも行かぬもお前次第。だが、妹はきっと待っているだろう」
「勝手なことを言う」
「勝手なものか。私はただ、事実を述べたまでだ」
シグムンドの戸惑いなど知らぬふりで、フレイは無造作に立ち上がり、その場を去っていく。
「おい、フレイ」
シグムンドが呼びかけても、応えるどころか、振り向こうともしない。己の用事は終わったとばかりに、銀の鎧を煌めかせて去っていくフレイを、シグムンドはしばし呆然と見詰めた。勝手なことを、と口の中で呟くが、それを聞く者は居ない。
どうするべきかと一瞬葛藤が生じたが、それは本当に僅かな間のことだった。生粋の北の男、何よりも臆病を厭うシグムンドにとって、躊躇いや迷いは本来縁のないものである。重要なのは己が何を望むか、それだけだ。
シグムンドは手近な者達を呼び寄せ、焚き火の番を頼むと、その場を離れた。彼らが居るのは陣の中心近く、最も人が集まっている区画だが、不思議とフレイヤの付近には誰の影も見られない。焚かれた火からも離れ、月明かりに真白く浮かび上がる姿は、今ここが何処かを忘れさせる程に美しいものだった。
シグムンドは息を吸い、しかしそれを直ぐに声にはできず、緩やかに吐き出す。数秒の間迷いを巡らせ、やがて表情を引き締めると、足を速めて女神の元へと歩み寄った。
「シグムンド」
フレイヤが彼の名を呼ぶ、恐らくは少し前から、近づく男の正体に気付いていたのだろう。あるいはシグムンドから声をかけるのを待っていたのかもしれない、だがシグムンドは何も言わぬまま、そっとフレイヤの傍らに近寄る。
「どうかしたのですか、シグムンド」
「いや。座っても、構わないか」
「ええ、勿論」
指し示されるまま、シグムンドはその場に腰を下ろした。平坦な地を選んでいるとはいえ、体の下に椅子はおろか毛皮すら無い。厚い武装に身を包む戦士ですら、地面の固さと冷たさを感じるというのに、女神に対して強いるには劣悪過ぎるのではないかと、シグムンドは内心眉を顰めた。
「寒くは無いか」
「いえ、大丈夫です」
だがフレイヤは、王宮に居るのと何も変わらない様子で、人々と同じ環境に身を置いている。薄布に覆われた柔らかな肢体には、夜露に塗れた草の敷物は冷たすぎるだろうに、ちらとも不快を表していない。己に向けられたシグムンドの気遣いが、一体何に対するものなのかと言いたげに、不思議そうに首を傾げて言葉を続けている。
「先程、兄様と話していましたね」
神の体だ、人と同じ形をしていても、受ける感覚は全く異なるのかもしれない。戦場でも、人ならば何度死んでも追いつかないような攻撃を受けながら、平然とする姿をよく見かけた。人であるシグムンドの心配など、女神には無用なのかもしれなかった。
だが例えそうだとしても、薄布から肩を露出した彼女の衣装は、夜風に晒すにはあまりに無防備だ。シグムンドは問いに応える前に、上着を脱いで、フレイヤに着せかけてやる。
「着ていろ。その姿では、やはり寒そうだ」
唐突な行動に、フレイヤはしばし目を見開き、驚きを噛みしめているようだった。シグムンドが口を開かずにいると、ふっと表情を緩めて、与えられた防寒具をかき寄せる。
「有り難うございます。それでは、貸してもらいましょう」
「ああ」
上着を脱ぎ去ったシグムンドの身体にも、夜の冷たさが染み入ってきた。夏は終わり、秋も既に半ばを過ぎている。初めて巨神の襲撃を受けたのは夏の初め、それから随分長い間、戦いを続けてきた。もうすぐ冬がやってくる、ミズガルドを厚い雪が覆うのも、さほど先の話ではないだろう。
「何を考えているのですか、シグムンド」
フレイヤに名を呼ばれ、シグムンドは遊ばせていた思考を戻した。不思議そうに彼を見るフレイヤの、大きく透き通った瞳を見返す。
「何ということもない。もうすぐ雪が降るな、と思っていた」
「そうですね。いつの間にか、そんな季節になってしまいました」
「ああ。気付かないうちにな」
初夏の空に番の鷹を見かけた、あの日が遙か遠いことのように思える。戦いの中でどれだけの時間が経ったのか、今となってははっきりと感じることさえできない。もう何年も戦い続けてきたのではないかと、有り得ないと分かっていて戯れ言を呟きたくなってしまう。
「長い戦いだった。神の身にどう感じられたかは知らないが、俺達にとっては」
「私達にとっても同じです。長く、辛い戦いでした」
だがそれももう直ぐ終わる、最後と思った戦いは幾度と無く有ったが、恐らくこれが本当に終焉だ。終わりを迎えた先に立っているのが誰なのか、今はまだ、考えるべきではないだろう。
「シグムンド、貴方には感謝しています」
けして明るいとはいえない未来に馳せられ、冷たく引き締まっていた感情が、しかしフレイヤの一言で瞬時にして和らぐ。目を見開き、耐えきれず笑いだしてしまったシグムンドに、フレイヤが不思議そうな視線を向けた。
「どうかしたのですか」
「いや。先程、フレイにも同じことを言われた」
ここで笑い出さねば、後には謝罪が続いたのかもしれない。二人共に相対することは少なかったから意識したことは無かったが、この二人はどうやら、似た部分が多くあるようだ。
「やはり兄妹だな、お前達は」
「そうかもしれません」
相手が神であることも構わず笑い続けるシグムンドを、フレイヤは怒るでもなく見詰めて、そしてふと笑みを零した。
「そんな風に笑うのは、初めてですね」
そして囁かれた言葉に、今度はシグムンドが驚きを示す番だった。へらへらと笑う情けない男ではないと自負しているが、そう改めて言及される程、自分の笑い顔は珍しいものだったか。無言の疑問を読みとったのか、フレイヤが頷く。
「あなたはいつも、難しい顔をしてばかりでしたから」
「そうか? そんなに俺は、愛想が無かったか」
「ええ。睨まれているのかと思ったこともありましたが」
「目つきが悪いだけだ」
「そうですね、兄様も同じことをおっしゃっていました」
小鳥のように首を傾げながら微笑まれ、シグムンドが渋い顔になる。だがさすがに、自覚があることを口先ばかりで否定することもできない。
「でも、兄様と話している時のあなたは、とても楽しそうでした。私は嫌われてしまったのかと、心配したのですよ」
そんなシグムンドの様子に、フレイヤはまた笑いながら、そんな言葉を繋げた。軽く語られてはいるが、彼女が抱いていた危惧は、実際一面の真実を突いてはいる。フレイヤと相対する時に、シグムンドがその表情を強ばらせずに居られたかどうかは、彼自身にも分からなかった。彼女に対して抱いていた複雑な思いは、言葉を介さずとも態度によって、隠すことが出来ず表に出ていたのかもしれない。
「そんなことはない」
だがその根にあるのは、単純な好悪の念に収まらぬ感情だ。彼女がそれを解しているのか否か、シグムンドは気付けば、凝視に近い眼差しを彼女に注いでいた。少女の如く無垢に見えても、人が考えることも出来ぬ長命を生き、愛を司る役目を与えられた存在である。澄んだ瞳の奥に何があるのか、ただの人たるシグムンドには、察せられる筈も無い。
「有り難う、シグムンド」
いくらその目を覗こうと、彼女の心は分からない、だがそれでも構わないと決めていた。女神の真意が何処に有ろうと、向き合いたいのはただ、目の前の女一人だ。
「貴方と出会えて、良かった」
「それは俺が言うべき言葉だ。お前達と共に戦えて良かった、おかげで」
北の戦士として、神と同じ戦場に立つのは何よりの誉れだ。そしてシグムンドにとって、彼ら兄妹と剣を並べての戦いは、それ以上の意味を持っている。
「フレイのような神も居ると――そして、お前ような誇り高い女も居ると。それを、知ることが出来た」
「シグムンド」
「お前ほど気高い女を、俺は知らない」
確かに彼女は愛の女神だ、愛欲を以って男を惹きつけ、惑い狂わせる。だが同時に、愛の元に命を投げ出し、その身を賭けて人々を導く女神でもあるのだ。
「出会えて良かった、フレイヤ」
「シグムンド、私こそ」
フレイヤの指がぴくりと動き、浮き上がったそれは、伸ばされることなく自らの胸元に押しつけられる。笑みから移り変わった、痛みを感じる程に真剣な色が、美しい顔を染めていた。
「貴方のような男は、初めてでした。私を愛した男は居ても、私を護った男は今まで居なかった」
男としてのシグムンドを誘う色香とは、根本を異にする光が、今のフレイヤからは感じられる。きっとこれが、フレイヤ自身の輝きなのだ。誰も知らぬ、彼女の兄ですら知らぬ、人知れず輝き続けた光。
「嬉しかったのです。命尽きかけた私の元にやってきてくれた時も、ロキを前に膝を折る私達を叱咤してくれた時も」
シグムンドは、固く握りしめられた彼女の手に触れ、引き寄せて握り締める。フレイヤの身が強ばり、僅かだけ抗う力が伝わったが、シグムンドの動きを妨げる程のものではない。
「共にアスガルドに来てくれると、言ってくれた時も。私は、嬉しかった」
掌の中に納めた手は、剣や弓を握っているとは思えぬ程しなやかで、滑らかな肌を持っていた。ひやりと低い体温が、シグムンドの熱を受けて暖まっていく。
「それに、初めてだったのです。――私を、抱かなかった男は」
シグムンドはさらに力を込めて腕を引き、同時に己も身体を寄せて、フレイヤとの距離を狭めた。片腕で手を握り、もう片腕で彼女の背を抱く。シグムンドの腕の中に苦もなく収まり、尚余裕すらある細く華奢な肢体。近接した瞳には、微かな涙の膜が張り、月明かりを受けて揺らめいて見えた。
「フレイヤ」
いや、月の明かりだけで、ここまえ鮮やかに輝けるものだろうか。フレイヤ自身が光を放っていると言われても、シグムンドは信じただろう、それ程彼女は美しかった。
「シグムンド、貴方は勇士です」
絡め合う手だけを間に挟み、シグムンドとフレイヤは向き合っている。後もうほんの少しで無になる距離を置き、フレイヤの肉体が、男としてのシグムンドに訴えかけてきていた。
「望むならば、貴方は私を抱くことが出来る。貴方には、その権利があります」
「いいや」
それはいつかの夜と同じように。だがシグムンドは、静かに首を横に振り、開いた空間はそのままに、フレイヤの手を握るばかりだ。
「俺が欲しいのは、そんなものじゃない」
「シグムンド」
「女神の愛など必要ない。俺が欲しいのはお前だ、フレイヤ」
女神という役割の奥に居る、彼女自身が。
愛した女の愛情と肉体こそ、シグムンドの望むものだった。
「シグムンド、私は」
フレイヤは目を瞬かせ、シグムンドの視線を受け止める。
「私は、貴方だけの女にはなれません」
常と同じように淡々と、だが深くの何処かに悲しみを潜ませて、フレイヤが囁く。シグムンドは静かに笑うと、首を横に振った。
「構わない」
握る手がするりと解け、フレイヤの肩に触れる。分け合った体温で暖められた掌が、剥き出しの皮膚を包み込んだ。生じた温度差は、やがて互いの熱を伝え合い、ぴたりと同じ一つの温度となる。握られた手が退けられ、互いの身体を隔てる物は何も無くなった
「俺がお前にとって、唯一の男で有れば、それでいい」
シグムンドの手がフレイヤの肩を引き寄る。フレイヤも抗うことはせず、シグムンドの力に身を任せてた。
唇が触れ、一瞬遅れて肉体の距離が零となる。
更けてゆく夜の片隅、光も届かぬ闇の中。重なり合った二人は、もはや言葉も無いまま、互いの存在だけに己を預けていた。







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セキゲツ作
2011.09.02 初出

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