・妄想多めです。根拠が薄くても気にしないでください。


● 製法について。

まず、鎧の製法について考えてみる。
中世ヨーロッパの鎧を考えると、一般的な全身鎧は、板金を使ったプレートメイルが思い浮かぶ。これは、時代による技術の制限はあるが、鍛造(金属を叩いて伸ばす製法)によって作られるのが一般的だ。
では、この世界の全身鎧も板金鎧なのだろうか?

断じる前に、ワールドガイダンスの49ページを見てみよう。設定画集の、重装歩兵のコーナーに、以下のような端書きがなされている。
『鎧をハンマーで叩いて形を作る板金鎧でなく、鋳型に鉄を流し込んで作る鋳造鎧、とか』
この端書き、及び周囲の設定画を見るに、重装歩兵のデザインはこの工法をイメージして描かれているようだ。確かに形状を見ると、板金鎧というには厚みが有りすぎるように思える。グランオルグには大規模な重装歩兵隊があり、大量生産に向く鋳鉄製の鎧が使われているという可能性も考えられるかもしれない。

では、ここで一番問題にしたい、ロッシュの全身鎧について考えてみる。
ロッシュが着用している鎧もまた、鋳鉄製の鎧なのか?
それを考えるために、まず鍛造と比べての鋳造の長所・短所について列挙してみよう。


<長所>
・複雑な形状でも作ることができる
「型に流し込む」という製法から、板金では難しい入り組んだ形状や細かい装飾なども容易に作ることができる。

・大量生産に向く
マスターとなる型さえ作ってしまえば、同じ形状のものを何個も作ることができる。作成にかかる時間も短くて済むため、規格化した鎧を大量に作成することが可能。

・作成後の切削が可能
板金加工と違い、一度形を作った後に、削るなどして外形を変更することが容易。


<短所>
・同強度であれば厚みが必要になる
熱鍛造を行った鉄と比べ、同じ厚みであれば、強度が低くなる。このため同程度の防御力を保つためには、板金より遥かに厚み(=重量)が必要となる。

・少量生産に向かない
型を作るにはそれなりの手間と金が必要になるため、一定数以上の出荷が見込めなければ逆に鍛造よりも割高になる。


さらにアリステルの軍編成を考えてみる。
パロミデス隊に代表されるように、重装歩兵が重要な戦力として認識されているグランオルグに対して、アリステル軍では殆ど重装歩兵を見ない。ゲーム中で確認できるのは、敵ユニットとして登場する分を含めても、ロッシュ一人のみである。国力として大きく劣っているアリステルでは、先天的な才能(体格、筋力など)が必要となる重装歩兵を、戦力のメインとするほど集めるのは難しいのだろう。その代わりを勤めるのが、魔動兵に代表される魔動技術といったところか。
ともあれ、アリステル軍に重装歩兵は少ない。ロッシュ一人のみということはないだろうが、少なくとも極少人数しか居ないことは間違いないだろう。
この状態では、鋳造の長所である「大量生産に向く」という特性が完全に打ち消される。型を作成するコストを取り戻すだけの個数を作ることが見込めない……最悪、体格も一定でないため、重装歩兵一人につき1個の型が必要になる可能性も考えられる。
このことから考えると、少なくともアリステル国内での生産する場合に限っては、鋳造ではないと考えられるだろう。
ただし、他国からの輸入品であると考えれば、鋳造鎧を使っている可能性も残る。しかしこの場合、まさに戦争中のグランオルグから輸入するということは考えづらい。となると残る相手は両国と貿易を行っているシグナスだが、民族衣装や住居などを見るに、金属加工技術が発達しているようには見えない。砂の剣などの特殊性のある武具は有名だが、鎧のような一般的な装備は、輸出できるほど製造されていないのではないだろうか。セレスティアおよびフォルガに関しては、貿易を行っているとすら考えづらいので、やはり鎧はアリステル国内産、そして板金鎧ということが考える。

では、以下纏め。

・ロッシュの鎧はアリステル国内で作られている
・製法は熱鍛造、所謂板金鎧。
・これはアリステル国内の重装歩兵が少なく、鋳造で作るメリットがないため。



● いつからあの鎧を身につけているの?

さて、次にロッシュがいつからあの鎧を身につけているかについて考えてみる。
まず考慮すべきは、鎧の値段。
第一段階で、彼が身に付けているのはアリステル製の板金鎧、という結論を出した。板金鎧は大量生産ができず、また全身鎧というものは体格にぴったり合わせなければいけないため、ほぼ一点ものとして作られているのが普通だ。このため価格はかなり高価だと思って間違いないだろう。
さらに一般人の金銭感覚だが、サブイベントでアリステルの住人が「高価な薬」として出してきたのが「アンチポイズン」であること。および新兵部隊に対してのロッシュの発言に「ついこないだまで武器も持ったことが無かった市民」という内容があることから、一般人にとって武具は簡単に購入できる値段設定ではないと考えられる。

つまり全身鎧は、従軍直後の新兵が使えるような装備では無い。また自前で用意するのも難しい価格だと思われる。
このため、ロッシュも新兵時点では、普通の鎧を身に着けていたと推測できる。

ではいつから全身鎧を身に着けていたかという問題だが、恐らくガントレットを移植したことがきっかけだろう。
腕の半分以上を丸々金属にしたのだから、それ以前に比べてどうしても動作は遅くなる。鍛えて補うことも可能だが、限界がある。それよりも全身鎧を身に着け、重装歩兵となる道を選択したのではないだろうか。ガントレットを持つことによりある程度特権的な扱いを受けることになり、高価な全身鎧を配給してもらうことが出来るようになったのだろう。
実際に装着を始めた時期については推測が多くなるが、ガントレットを装備したまま動くことが出来るようになり、筋肉がある程度発達してきた、腕切断後1年程度というのが自然だろうか。



● ゲーム中の鎧について

異伝においてロッシュは、途中から軍を離脱している。
その時の状況(生死を彷徨う大怪我の治療中、意識がない状態でストックとソニアの2人に連れ出された)を考えると、この時に鎧を着用していたとは考えづらい。特にこのイベントの後半、ソニア一人でロッシュを担いでしばらく歩く、という描写を考えると尚更である。キャラクターグラフィックは鎧着用のままだが、これは(あまり良い言い方でないのは承知しているが)「グラフィック差分を用意する余裕が無かったため」という解釈を押し通したい。そう考えないと、ソニアの腕力が尋常でないことになってしまうためである。
また、この解釈ならば、ガントレットが動かなくなったことで、ロッシュが全く戦えなくなったことにも説明が付く。重量級の鎧を着こなすロッシュが、左腕一本使えなくなった程度で、戦闘能力の全てを失うというのは不自然だ。精神的な問題で通常の戦闘に参加できないのは分かるが、セレスティアがアリステル軍に襲われるという非常時においても、彼は戦闘に参加していないのである。ロッシュの性格を考えると、世話になった里の者達が危ないという状況で尚且つ戦闘に加わるのを躊躇うとは思えない。実際セレスティアの住民が「ガントレットが動かないため戦闘に参加できず、悔しそうにしている」という姿を目撃している。これも、鎧・ガントレットが共に無く、防御面がほぼ皆無に等しい状態だったと考えれば納得できる話である。

さて、上記の理由から、アリステル脱出時にロッシュが鎧を身に着けていなかったことを前提条件として話を進める。
ここで問題になってくるのは、「戦線復帰時にどうやって装備を調達したか?」という点。
上の項で考察したが、あの鎧はアリステル製であり、セレスティアに居ながらにして入手するのは難しい。いや、単にアリステル製の防具だとすればストックがアリステルに行った時(ヒューゴの演説を聞いたイベントの前後)で入手することはできるだろう。しかしロッシュが使っているものは、ガントレットを取り付ける都合上、特注に近いものだったと予想できる。だとすれば通常の手段では購入できないのではないだろうか。
しかしこの状況でもロッシュの鎧を入手できる人物が、一人居る。アリステル城から逃れて地下に潜っていた、ラウル中将だ。
表舞台から姿を消したとはいえ、手駒を全て失ったわけではないだろう。シグナスに居るエルーカと繋ぎを取ったり、世界情勢を正確に把握していることから、ある程度自由に動かせる部下が、複数人居たと考えられる。また、元々ロッシュの上司でありさらに軍の要職だったことから、装備を仕入れるルートにも詳しいはずだ。必要であればロッシュのために鎧を一揃い入手するくらいのことは可能だろう。それを行う動機もある、少ない戦力を効率的に纏めるための将として、ロッシュの存在は相当に重要だ。ラウルは、ロッシュのガントレットが壊れたことはギリギリまで知らなかったようなので、怪我さえ治れば戦いに戻ってくれると思っていたことだろう。その時のために、使い慣れた鎧を用意しておくというのは、十分考えられることだ。

では、以下纏め。

・異伝セレスティアへの亡命時、ロッシュは鎧を身に着けていなかった
・戦線復帰時のため、ラウルが鎧を準備し、立ち直った際にロッシュに与えていた



以上、ややこじつけ気味ですが、鎧についてのあれこれでした。






セキゲツ作

2011.06.10 初出

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