それは天の悪戯か。
突如としてロッシュが心身ともに子供に戻ってしまったその日。
ストックは赤子のいるソニアの代わりに世話役を引き受け、仕事場に連れて行った。
幸いストックの執務室は軍とは離れている。上司のラウルにこそりと許可を取り、その日は外出せずに部屋で出来る仕事を回してもらい、定時で上がったその帰り道にストックは子供となったロッシュの異変に気づいた。

「ロッシュ、どうした」
「あ?」
「さっきから全然話をしてない」
「……別に関係ないだろ」

仕事場に居た時には何かと、自分が邪魔ではないかとか、これは何だあれは何だと、子供ながらに好奇心旺盛にストックに話しかけていたが、アリステル城を出てからは一言も口を開いていない。
考えて見れば夕方頃から口数が減っていた気もする。
それに、今もストックはロッシュの歩幅に合うよう速度をかなり落として歩いていたのだが、それでもロッシュは2・3メートル遅れてついてきている。
ストックはすたすたとロッシュに近づくと、その気配に圧されたのか、ロッシュは一歩足を引いた。

「何だよ」
「すまない」

一応一言謝ってから、ストックは手を伸ばしロッシュの額に手を当てた。
瞬間、ストックの顔が顰められる。

「……酷い熱だな」
「別に大丈夫だって、こんなん明日になりゃ、ってうわっ」

ストックはロッシュの返事など聞かず、その身体を持ち上げた。
大人になったロッシュを比べるまでもなく、当然だが軽い。
今のロッシュと同じような年頃の子供の平均体重などストックにはわかりっこ無いが、それでも抱え上げればその体が身長の割にかなり痩せ気味なことが感じ取れた。

「お、降ろせって!自分で歩けっから!」
「駄目だ」

ストックは一言で断じると、ロッシュを担ぎ上げたまま我が家へ向けて走り出した。



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家に着いたストックが取った行動は素早かった。
まず、ロッシュを客間に連れて行き寝台に寝かせた。
その後すぐにソニアに連絡し、風邪を引いていることと一晩預かることを報告した後、ロッシュの症状を伝えた。
ソニアは医者ではあるが、専門は外科だ。するとソニアはマルコに連絡して事情を話し、マルコが風邪に効果のある薬草を持ってきてくれることになった。
ストックが部屋に戻ると濡れタオルを頭に乗せたロッシュがこちらを睨みつけて来たが、しかし口を開く元気も無いのか無言のままだったので、ストックは先に声をかけた。

「大丈夫か」

ロッシュはストックを睨みつけたまま、浅い呼吸を繰り返している。
かなり熱が上がっているのだろう、苦しそうだ。

「今、俺の仲間が薬を持ってきてくれる。もう少しの辛抱だ」
「……余計なこと、すんなよ」

昼間の威勢の良い声と比べると随分と掠れ、苦しそうなものだった。
それでもまだ虚勢を張る子供のロッシュに、ストックは知らず苦笑していた。

「……なんだよ」
「いや、何でもない。お前は意地っ張りだな」
「……バカにしてんのか」
「そんなことはない。調子が悪いときくらい、周りに頼れば良いんだ」

ロッシュは答えず、黙ってその目をストックの方へ向けている。
昼間あれやこれやと話したおかげでわかったのだが、ロッシュの記憶もどうやら子供時代のものに戻ってしまっているらしい。
だから、そう言ってみたところで当のロッシュにとっては今周りにいるのは知らない人間ばかりだ。
ロッシュが子供の頃どんな生活を送っていたのか推測することしかできないが、大人に対する警戒心が強そうなことはわかっている。
その割には何故かストックには気を許しているようで、それは謎だったが。
ただ、ソニアに会った時に真っ赤になってストックの背後に隠れた辺り、余り根本は変わっていないのかもしれない。
と、そこでこんこんと部屋の扉が二回叩かれ、聞きなれた声が聞こえてきた。

「ストックいる?」
「ああ、今開ける」

ストックは椅子から立って扉を開けた。すると、予想通りそこにはいくつかの鞄を肩にぶら下げたマルコが心配そうに立っていた。

「大丈夫なの、ロッシュさん…風邪も心配だけど」
「とりあえず診てやってくれるか」

マルコを中へ入るよう促して扉を閉め、ロッシュが寝ている寝台の横に立った。
マルコは横になっているロッシュをじっと眺め、正直な感想を述べた。

「うわあ……本当に小さいロッシュさんだ」
「…………」
「身体が小さいせいか、なんか凄い違和感あるね。あとはその……なんかすごく睨み付けられてる気がするんだけど」
「良くわからないが、知らない人間に対して警戒心が強いみたいだな」
「知らない人間か。まあそりゃそうだよね」

少しだけ寂しそうに笑ってから、マルコは顔を引きしめた。

「とりあえず、風邪のことなら少しはわかるからね。ちょっと失礼するね」

言って、ロッシュの額に手をやり、鞄から簡易的な医療器具を取りだしては、あちらこちらを診察し始めた。
ストックはロッシュが暴れだすのではないかと思っていたが、睨みつける目つきは変わらなかったものの、暴れることもなくマルコの指示に従っていたので少しほっとした。
診察を終えたマルコは布団を元に戻してやりながらストックに告げた。

「流行り風邪かな。喉が真っ赤で、高熱が出て。これからちょっと咳も出るかもしれない。今ちょっとアリステルで流行してるんだよ」
「大丈夫なのか」
「ロッシュさんは食欲あるの?」
「昼食は取っていたが夕食はまだだな」
「そしたらパンをシチューに浸したものとか、食べやすいものを少しでも食べさせた方がいいよ」
「わかった、レイニーに頼んでおく」
「そうしてみて。後は薬だけど」

マルコは自分が持ってきた小瓶をいくつかストックに差し出した。瓶の中身はマルコが調合した薬草の粉末だ。

「とりあえず、ご飯が食べられたらこれとこれを匙一杯、一緒でいいからコップ一杯のぬるま湯に溶いて飲ませてあげてね。解熱剤と抵抗力あげる薬だから。後はこれだな、ご飯食べる前にちょっと苦いけど我慢して飲んでもらって」
「これもぬるま湯か?」
「うん、その方が飲みやすいかな。こっちは匙二杯とコップ半分、ちょっと弱めの万能薬ね。熱下がってもニ・三日はぶり返す可能性あるから、飲んでおいた方がいいよ」
「ああ、わかった。助かった」
「これくらいどってことないよ」

置いた鞄を肩に掛け、マルコは立ち上がった。

「忙しなくて申し訳無いけど、もう行くね。一度戻らなきゃいけないんだ、城にまだ用があって」
「わざわざすまなかったな、忙しい時に」
「全然いいよ、ほんと一大事だし。でもちょっとその、小さくなっちゃったのはわからないからなあ」
「……そうだな」
「多分ソニアさんも調べてるだろうけど……心配だね」
「ああ」

ストックもマルコもレイニーも大概心配しているが、一番心配しているのはロッシュの妻であるソニアだ。
当然のことだが、今朝の狼狽ぶりも凄かった。
自分の生涯の伴侶が朝起きたら子供になっていたなど、普通は夢にも思わない。

「まあでもまずは風邪を治すことだからね。何かあったらいつでも呼んで、駆けつけるから」
「ありがとう、マルコ」
「お安い御用だよ」

マルコはその人の良さそうな笑みをストックに向け、さらにはロッシュにも向けた。

「見送りは要らないから、ストックはロッシュさんを見ててあげて」
「……何から何まですまない」
「僕だって元傭兵、元情報部で、現隊長だから結構色々何でもできるよ」

ストックが苦笑したのを見ると、マルコはあはは、と笑い、音を立てずに扉を閉めて去って行った。
ストックはロッシュの頭のタオルを再度変えてやってから少し様子を見ていたが、やがて席を立った。

「水の用意をしてくる」

しかし先ほどからロッシュの視線がストックを捉えたまま動かないことに気づく。
心配になり、ストックは寝台を覗き込んだ。

「どうした?苦しいか」
「……なんでもないって、さっさと行けよ」
「……すぐ戻る」

後ろ髪を引かれている気分だったが何とかそれを振り切ると、ストックはすぐに階下の台所へと向かった。

「あ、ストック、ぬるま湯できてるよ。持ってってね」

レイニーに声を掛けると、丁度ぬるま湯の準備をし終わったところだったようで、水差しにぬるま湯を入れている。
焜炉には火が入り、鍋では何かがぐつぐつと音を立てていた。牛乳と野菜を煮込む時のふんわりとした良い匂いが漂ってきている。
マルコが帰り際に口添えしといてくれたのだろう。どこまでも気が利く、彼の素晴らしい長所だ。

「ロッシュさん、流行り風邪だって?」
「みたいだな」
「大丈夫かなあ。そりゃ大きいロッシュさん…ってのも変な言い方だな。大人なロッシュさんがかかっても心配だけど、あんだけ小さいロッシュさんがなるのも結構心配だよね」
「……ああ」

先ほどのマルコと似たような返事をしたつもりだったが、レイニーはそのまま流さなかった。

「まったく、ストックもわかりやすいんだから」
「?何がだ」
「相当ロッシュさんのこと心配なんでしょ」
「……そんなのは当たり前だろう」

それに対しレイニーは答えず、先ほどの水差しをぐい、とストックに押し付けた。そして棚からコップを出し、それもストックに手渡す。

「ほらストック、早く戻ってあげないと!ロッシュさんはストックにだけ懐いてるみたいなんだから、ついてないと心細いかもだし。あ、シチューできたら持っていくね」
「……すまない」
「何言ってるの、このくらい何てことないって!あたしたちの夕飯も兼ねてるし」

レイニーはけらけら笑いながら、鍋に入れられたお玉を手に取った。
ストックは改めて礼を言い、足早に客間に戻った。
そっと扉を開くと、ロッシュがうっすらと目を開けたのが見えた。

「……起こしたか」
「………」

やはりロッシュは応えず、荒く息を吐いているのみだ。
ストックは再度、タオルを冷やしてやった。さっきから何度も冷やしてやってるのだが、どうも楽になっている様子はない。
今レイニーは料理を準備してくれている。食べる前に飲ませるべき薬があった、まずはそれを飲ませなければ。

「ロッシュ、薬を飲もう」
「……いらねえよそんなん」

ロッシュは一言でその言葉を切り捨てたが、ストックもさすがにそこを譲るわけにはいかなかった。

「駄目だ。悪化したらどうするんだ」
「別に悪化したって死にゃしねえよ」
「……流行り風邪で子供が死ぬこともある」
「…………」

魔法で怪我の治療は可能でも、病気を治すことはできない。
故に、まだ薬学がそこまで発展していないアリステルでは、病気での子供の死亡率がそこそこ高いのだ。
ストックはマルコに言われた通りに匙二杯分の粉を持ってきたコップに入れると、ぬるま湯をコップの半分まで注いだ。
それを掻き混ぜる。薄緑色の粉がコップ全体に撹拌され、なんとも不味そうな色の液体が完成した。

「……いかにも毒って感じがするぜそれ」
「毒じゃない、薬だ」
「毒じゃない証拠なんてあんのかよ」
「……そんなに信用できないか。なら仕方ない」

そう言うと、ストックはコップを手に取り、一息にその中身を飲み干した。

「………!」
「これでいいか」

ストックは手早く先ほどと同じように薬を溶くと一旦机に置き、ロッシュを起き上がらせようと背中に手を入れた。
抵抗されるかと思ったがそんなことはなく、割とあっさりとロッシュは起き上がった。
実力行使が良いのかもしれない。

「少し苦いが、頑張れ」
「……苦い」

ロッシュは少しコップに口を付けると、顔を顰めながら呻いた。

「飲みにくいか」
「大丈夫だって、お前だって飲めたんだ」

ストックに対抗心を燃やしているのか、むすっとしながらもロッシュは鼻を抓むと一気に喉へと流しこんだ。
顔を歪めているロッシュから差し出された空のコップを受け取りながら、ストックは思わず小さく笑ってしまった。

「何笑ってんだよ」

まだむすっとしているロッシュに、いや何でも無い、と咳払いを一つして、ストックは椅子に腰を下ろした。
背を向けて横になってしまったが、気にせずにその背に向かって話し掛ける。

「もう少ししたら、料理もできる。少しは食べられそうか」
「…………」
「ロッシュ?」
「……お前の周りは変な人間ばっかだな」

その声は小さかったが、聞き取れないほどではない。
ストックは落ち着いた声音で、問い返した。

「変なって何がだ」
「金も取らずに薬持ってきたり、飯作ったり」
「……そうか」
「変なやつらだな。お前が変だからか」
「そうかもしれない」
「自分で認めんのか!やっぱり変なやつだな」

ロッシュは声を立てて笑った。ストックもそれにつられた。

「で、食べられそうなのか」
「……少しくらいなら」

すると、丁度レイニーがストックの名を呼んで、料理の完成を告げてきた。
ストックはロッシュの寝ている客間に料理を運び込み、レイニーも含めて三人で遅い夕食を取った。
心配していたロッシュの食欲だが、なんだかんだ言いつつも結局少しは残したものの、八割以上は食べ切った。
ストックとレイニーは一先ず胸を撫で下ろした。





その夜中。
ストックは今夜一晩はロッシュに付いてることにした。
同じ布団に入るわけにもいかないため、客間にあったソファが寝台代わりだ。
ロッシュが寝付くまでは持ち帰った仕事を処理しながら、時間を過ごした。
日付が代わると漸くロッシュの寝息が聞こえてきて、ストックはロッシュが眠っていることを確認してから自身もソファに横たわった。
それから何時間眠っただろうか。

「……どこへ行く」
「!!!!」

そっと寝台を抜け出したロッシュがソファを横切ろうとした瞬間を見計らって、ストックは声を掛けた。
ロッシュは相当吃驚したのか、足元をふらつかせて尻餅をついてしまった。

「………ト、トイレだよ」
「なら、明かりを持って行かないと駄目だろう、どこだかわかるのかこの暗闇で」
「…………」

ストックは部屋の隅に置いておいた、まだ明かりの灯っているランプを手に取った。

「ほら行くぞ」
「……あ?」
「行かないのかトイレ」
「………行く、つーか明かりがありゃあ一人で行けるし」
「駄目だ。この家から出て行こうとしてただろう」
「……う」

図星を付かれて黙り込んだロッシュの頭をストックは軽く撫でた。

「とりあえずトイレだ」
「………」

ストックは片手でランプを持つと、空いている方の手でロッシュの手を引いてトイレへと連れて行った。
戻った後、ストックは再びロッシュを寝台へと寝かしつける。
ロッシュはその際に手を振り払ったり手足を振り回すなどの抵抗を試みたが、全てストックの力で抑え込まれた。
通常のロッシュならばストックどころか誰がかかっても敵わない腕力の持ち主だが、さすがに子供の姿になってしまった今ではその力はストックに遠く及ばない。

「熱は……少し下がったか。暴れる元気も出てきたみたいだしな」

横になっているロッシュの額に手を置きながらストックは安堵の息を漏らした。
ロッシュはまだ憮然とした顔をしている。

「汗掻いたか」

熱が下がったのならば汗を掻いたに違いない。それを確かめようとして身体を起こさせようと背中に手を差し込んだ瞬間、また手を振り払われた。

「余計なことすんなって!」
「余計なことなど一つもした覚えはない。少し湿ってるな、まあ俺のしか無いがそのままでいるよりは良いだろう」

しかしストックは構わず、箪笥から新しい着替えを取りだす。子供用の服など無いためロッシュにはストックの服を着せている、当然のようにサイズが合わないため簡単に脱がせられた。
着替えを終わらせ布団をかけると、ロッシュは布団に潜り込んでしまった。
ストックもソファに戻り、身を横たえる。そのまま目を閉じてしばらくすると、睡魔が襲ってきた。



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翌朝。
ロッシュの熱はまだ下がりきってはいないものの微熱程度になっていた。どうやらマルコにもらった薬が効いたらしい。
一応念のため、ストックはその日一日だけ休ませてもらい、緊急の案件は城より書類を届けてもらうことで手を打った。
ちなみにまだロッシュの心身は子供のままだ。原因もその解決方法もわからないためどうしようもない。とりあえずラウルとビオラに連絡し、仕事の方は何とかしてもらうことになった。

そして、ストックはその日の午後にソニアを自宅に呼び出した。
その頃にはロッシュも大分快復し、家の中をあれこれ探索するようになっていた。まだ寝ていろと言っているのだが、全く聞き入れる素振りがない。
ソニアは一先ずロッシュの風邪が快復していることに安堵をし、それからまた顔を曇らせた。

「……大丈夫かしら」
「そればっかりは何とも言えないな。そのうち朝目覚めれば元に戻っているような気もするんだが」
「あなたにしては珍しく……暢気ですねストック」
「それはお前もあいつを見ればわかる、と言うか多分お前の方がよりわかると思う」
「……どういうことですか」

ストックはソニアの問いに答えず、今この場にいないロッシュを探しに行った。
ロッシュは昨日使っていた客間の寝台の上で足をぶらぶらさせながら窓の外を見ていた。

「ロッシュ、ちょっと来るんだ」
「あ?」

腕を引っ張って一階に降り、ソニアの居る居間へと連れて行く。

「ロッシュ、俺の親友の妻だ」

ストックはいきなりロッシュをソニアに紹介した。

「…………!」

実は昨日既に一度顔を合わせてしているので、改めて紹介する必要など無いのだがストックはわざとそうした。
ロッシュは昨日と同じように、あっという間に顔を真っ赤に染めるとストックの背後に隠れてしまう。

「あ、あの……ストック?」

ソニアもストックの意図が読めず、戸惑っている。
しかしストックはソニアには何も説明せず、後ろに隠れたロッシュを無理やりソニアの前に連れ出した。

「ロッシュ、ソニアだ。これから世話になることも多々あるだろうから、挨拶するんだ」
「な、な……」

しかしロッシュは言葉を紡げず、顔を真っ赤にしたまま居間を飛び出していってしまった。
階段を上る音が響く。

「今のロッシュはどうだ」
「どう、って言われても……」
「大人のあいつと何か違うところはあったか」
「……そういうことですか」

ソニアはやっとストックの意図が掴めたのか、小さな苦笑を浮かべた。

「大丈夫だ、小さくなってもあいつはあいつだ。大して変わらない」
「姿は大分違いますけど」
「それはそうだが……まあそのうち戻るだろう」
「そうですね」

出された紅茶を飲み干すと、ソニアは立ち上がった。
ストックも後に続く。

「では、私は戻りますね。あの人に何かあったら、すぐに教えてください」
「わかった」

ちなみにレイニーは今ソニアの自宅で赤子の面倒を代わりに見ている。

「それからストック、一つ言っておきたいことがあるのですが」
「なんだ」

ソニアは悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。

「実はあなた、子供が欲しいんじゃないですか」
「…………」
「レイニーちゃんから聞きましたよ。それはもう、頼もしかったって」
「……そうか」

それしか言えないストックをソニアはひとしきり笑ってから、自宅へと戻っていった。
それを見送ってから、拗ねているに違いないロッシュを宥めるため、ストックは二階へ上がった。





平上作
2011.08.21 初出

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