「最近、ストックと飲んでねえなあ」
「え? どうしたんですか、急に」
「どうしたってことも無いんだがな。そういえば最近、ストックと二人で飲んだり何だりしてねえ、って思ってよ」
「そうですね、確かに以前に比べれば、遊ぶ機会も減ったでしょう」
「あいつも俺も結婚したし、仕方ないっちゃ仕方ないんだが」
「以前はいつも二人で居ましたからね」
「いつも、って程でも無えだろ。ストックは情報部だったし、そもそもこの一年ちょっとはあいつ、アリステルにすら居なかったんだぜ」
「ええ、それで戦争集結の後すぐ、あなたもストックも結婚しましたからね」
「そうなんだよ。それでふと、な」
「寂しいんですか?」
「寂しいって、まあ……そうだな」
「あら。素直じゃないですか」
「からかうなよ。どうせお前にゃお見通しだろ?」
「ふふ、夫のことですから」
「家は近いし、しょっちゅう顔を合わせてるからな。前みたいに心配で仕方ないってわけでもないんだが」
「そうですね、ストックがアリステルに住んでくれて良かったです。あなたも安心できるでしょう」
「まあな。ま、とにかく、近くに居るのは居るんだ。文句言うようなこっちゃ無いな、無事ならそれでいいさ」



(物分かりの良いことを言ってるけど、やっぱり寂しそうね)
(かといって、そんなことを自分で言うのは気まずいんでしょうし。ここは私が口を出すべきかしら)
(今度、ストックと話をしてみましょう)



「ストック。たまにはロッシュと遊んであげてください」
「……何だ? いきなり」
「あなたもロッシュも結婚して、あまり二人で遊ぶことも無いでしょう? ロッシュが寂しがっているんです」
「寂しがっている? お前も子供も居るのにか」
「家庭と友人は別じゃないですか? 偶には男だけで遊ぶ時間も必要なんですよ、少なくともあの人には」
「……お前がそう言うなら、否定する理由は無いな。だがお前は良いのか?」
「ロッシュを誘っても、ということですか? ええ、勿論、相手が貴方なのは分かっているわけですし」
「そうか。結婚してもそんなことが許されるとは、思ってもいなかった」
「そんなこと、って、大げさですね。私はそこまで心の狭い女じゃありませんよ?」
「そうか……有り難う、ソニア」
「だから、大げさですって。そんな、二人で飲むくらいのことを、煩く言ったりしません」
「そうだな、偶には二人で飲ませてもらおう。それから」
「それから?」
「それから後は、まあ、ロッシュのやる気次第だな」
「……やる気? 一体何の」
「あいつも結婚したんだ、昔とは随分違っているだろう。それも楽しみではあるが」
「ストック。あなた、何のことを言って」
「お前の心が広くて良かった。俺の方でも、偶にはロッシュと二人で飲みたいと思っていた」
「ちょっと待ってくださいストック。……飲むだけ、ですか?」
「……飲む以外は不味いか?」
「いえ、そんな、小煩いことを言うつもりはありません。一般的に友人同士でするようなことであれば」
「そうか。良かった、ならば大丈夫だな」
「そうですか。……」
「よし、ならば今度、ロッシュを誘って」
「待ってくださいストック。念のため、念のためですが、具体的に何をするつもりなのか教えてください」
「何を、と言われても。そうだな、やはりまずは一緒に飲んで」
「ええ」
「飲んで……その後のことは、特に考えていないが」
「本当ですか? なら飲むだけ、ですね?」
「……だから、飲む以外のことをしては不味いのか?」
「いえ、その。た、例えば、帰りはどれくらいになるんですか?」
「時間か? その時によるだろう」
「予定で! 予定でいいんです!」
「……まあ、昔のように一晩中部屋で、というわけにいかないのは分かっている。日付が変わるまでには、お互い家に帰るようにしよう」
「……そうですか。そうですね、今は兵舎の部屋があるわけでも無いんですし」
「ロッシュだって忙しいのは分かっている。身体に負担はかけないように考えておくから、安心してくれ」
「…………」
「何だ、どうした」
「いえ。……分かっています、自分でも考えすぎだと思うんです。仲が良いのは分かっていますが、まさかそんな」
「ソニア、どうした? やはり、あいつが夜出歩くのは不味いか……」
「いえっ、そういうわけじゃありません! 勿論、普通に飲んだり遊んだり、友人同士がすることをする分には良いんです。ただ……」
「何だ。何かしてほしくないことがあるなら、先に言っておいてくれ」
「いえ、まあ、だからその。そうですね、変な遊びをされては困りますし」
「……そうか、成る程、女遊びの言い訳にされるのを警戒しているのか。安心しろ、あいつの浮気を助けるようなことはしない」
「本当ですか? 本当に、浮気はしないんですね?」
「当たり前だ。あいつがお前以外の女と遊ぶような真似、見過ごすと思うか」
「そうですね、私以外の女性と……女性……」
「……どうした?」
「いえ。ともかく、浮気はしないでくださいね」
「勿論だ、そんな店には近付かせないし、他の女と会う言い訳にもさせない。俺相手で満足させておくさ」
「…………」
「……どうした?」
「い、いえ……何でもありません。そうですね、考えすぎです。私も少し、おかしくなっているのかも」
「…………」
「分かりました、貴方を信じています、ストック。絶対に、その……裏切るようなことはしないと」
「あ、ああ」
「いいですか、約束ですからね!」


(……ソニアは、どうやら俺がロッシュを誘うのを、あまり良くは思っていないようだ)
(夫が自分以外を優先するのを良しとする妻は居ないか。気を遣ってはくれているのだろうが、割り切れていないように思える)
(仕方がない、ロッシュを誘うのは止めにしておこう。あいつの家庭に波風を立てたくはない)
(もう随分と二人で飲んだりなどしていないから、寂しくはあるが……)


「ストック、どうしたのさ? 何だか険しい顔してるじゃない」
「――レイニー。すまない、大したことじゃ無い」
「そう? でも、凄く真剣に見えたんだけど。……何かあったんなら、言って欲しいな」
「いや、本当に大したことじゃないんだ。ただ、最近」
「うん」
「……ロッシュと飲む機会が無い、と思ってな」


フリダシ ニ モドル?








セキゲツ作
2015.08.16 初出

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