悪夢を見た。

最近は見なくなったと思っていたのだが久しぶりに見てしまった。
しかも、今日のは夢の内容もしっかりと覚えているというおまけつきだ。
ストックは自分の汗ばんだ手を見つめた。
先ほどまでの夢の中で、この自分の手は何をしていたのか。
思い出した途端に手の汗がどろりとした血に思え、ストックは布団を剥がし洗面所に走って向かった。
余りに急いでいたので、寝台から降りたところでよろけてしまったが、構わず何とか体勢を取りなおして走った。
身体が廊下の壁にぶつかり室内に音が響いたが、眠っているロッシュに申し訳ないと思う余裕もなく洗面所へと急いだ。
蛇口を回し水が大量に放出されたところに手を出した。当然のように水が跳ねたが気にする余裕はない。
暫く手をこすり合わせ、気が済んだところで蛇口を閉めた。
暗闇の中、己の手を確かめる。赤く濡れてはいないはずだ。
ついでに顔も洗う。目が冴えてしまうが、仕方がない。早く夢の影を追い払ってしまいたかった。
タオルで顔を充分に拭ってから、部屋へ戻ろうと洗面所を出た。
廊下に足を踏み出した瞬間、突然恐怖感が襲ってきた。
落ち着け、とストックは己に必死に言い聞かせる。
今はもうアリステルとグランオルグの戦争も終わり、五カ国間で和平条約が結ばれた後の世界だ。
自分も時間移動は行っていない。白示録もグランオルグに返した。
今はもう、以前のように普通に流れている時間に乗って進んでいるだけだ。
しかし嫌な考えと言うのは、一度芽生えたら暫く時間を置かないと消えてくれない。
どれだけ有り得ないことだと言い聞かせても、ふとした拍子に思い出されてしまうのだ
昼間に思い出されることはほとんどない。何かしら動いているし人と話してもいるから、気が紛れているという言い方は変だが、気にならないのかもしれない。
そう、そんな思考の悪循環が起こる時間帯の多くが、今のように大陸全体が静まり返っている夜なのだ。
ストックは短い廊下の奥を見つめた。こんな物音を立ててしまったからには、先ほどまで隣で眠っていた親友は起きてしまっているだろう。
ともかく、ここであれこれ考えていても仕方がない。ストックは部屋に戻ることにした。



ロッシュは物音で目を覚ました。
もっともストックが一緒の布団から這い出た時点で意識は浮き上がりかけていたが、夜中に起きて小用を足すというのも良くある話だ。
大して気にもせず、再び眠りに落ちようかと思った時だった。
最初に何かが壁にぶつかる音がし、洗面所の水が勢い良く流れる音が聞こえた。
そこでロッシュの意識は完全に覚醒した。これは明らかにただの小用ではない。
ロッシュはのそりと身体を起こす。
寝る前にストックと酒は飲んだが、量的にはいつものように大して飲みすぎてもいないはずだ。酒酔いの可能性は低いだろう。
ならば、何だろうか。
そんなことを思っているうちに水道の音は消えた。しかしストックは戻って来ない。
これはいよいよ怪しい。将軍職に就いているロッシュほどではないにしろ、ストックとてかなり激務のはずだ。疲れが溜まっての体調不良か。
一度様子を見に行った方がいいか。
ロッシュは寝台から降りた。



「どうした、大丈夫か」
部屋に戻ると、ロッシュが立ち上がって心配そうな声を掛けてくれた。
この親友はいつだって己のことを心配してくれる。
時に本気で喧嘩で殴り合った後でも、心配するべきところは心配してくれるのだ。
いつだってロッシュ自身のことは二の次で。
そう、そうだ。二の次だったからこそ、ああなったのだ。
いや、二の次でなくてもどうだっただろう。例えばあの時、ソニアを人質に取られていなかったら。
それでもロッシュはストックに刃を向けただろうか。
ストックは急激に寒気を感じて身震いした。
しかし理性が必死で訴える。
最終的にはロッシュが刃を向けてくることは無くなった、それでいいだろう。
それ以上、何を望む気なのか。
おまけにそれを言うならば、それ以外にも過った歴史を歩んだこともあっただろう。
ロッシュのことは仕方がなかった。
仕方がなかったことだ。
あれをしたことにより、今の未来があるのだ。
目の前のロッシュを見ろ、彼は今きちんと生きている。妻を娶り将軍職に就き、充実した日々を送っているだろう。
酷い出来事ではあったが、今、己がここにいられるのもその歴史を歩んできたからこそだ。
終わったことに目を向けるくらいならば、明日の仕事のことを考えたらどうだ。
大事なのは同じことを二度と起こさせないことだ。そのためにも、明日の仕事に備え休むべきだ。
大体ロッシュとて激務というのに、こんな真夜中に起こしてどうする。
謝って静かに休め、今自分に必要なのは休息だ。悪夢のために貴重な時間を費やすことなどないのだ。
そこでストックは再び身震いした。
悪夢、そう今さっき見たのは明らかに悪夢だが、あれは決してただの夢ではないのだ。
無かった事になった歴史、ストックだけが体験している紛れもない事実なのだ。
ストックはそれを意識した瞬間、口走っていた。
「ロッシュ、抱かせてくれ」



深刻そうな顔をしながら、とんでもないことを口にしたストックにロッシュは眉間に皺を寄せた。
常が無表情で何を考えているのかわからない、ストックは良くそう言われる。
それでも長く付き合っていれば、その表情も無表情なりに違いがあるということに気が付くのだ。
「いきなり何を言うんだおまえは」
深刻そうだと思ったら変なことをしれっとした顔で言う、そのようなことは良くあった。
今回もそうだと思っていたのだが。
「頼む」
「…………」
ロッシュはストックと付き合いが長い。ストックがアリステル軍に来てから一番長い付き合いをしているのはロッシュだろう。
だからロッシュには人がわからないこともわかる。具体的なことはともかくとして、ざっくりとした何を思っているのかはわかる。
例えば喜怒哀楽、今の状態がどれなのか。
カーテンを閉め切った室内でも暗闇に目が慣れてくれば、薄ぼんやりではあるが目の前のストックくらいは見える。
ストックは俯き加減で拳を握りしめ立っていた。
そういうことを言う時のストックがどんな顔をして何を言うのか、ロッシュは良く知っている。
それが今日に限ってはどうだろう。
ストックも決して背が低いということはないが、それよりもロッシュの背は高い。
頭上から見下ろすと言うほど差があるわけではないが、ロッシュは上からストックを見下ろして応えていた。
「……わかった」
その瞬間のストックが見せた表情にロッシュは苦笑を浮かべた。
「まったく、心配させんなよ」
「……すまない」
「気にすんな。汗掻いてんな、後でもう一度シャワー浴びろ」
ロッシュはストックに手を伸ばした。額に触れれば汗を掻いているのがわかった。
「そうだな、余裕があったら…」
「そこまでやるつもりか」
「いや、そう言う意味では」
「わかってるって」
益々おかしかった。
いつもなら、茶化せばちゃんとと言うのも変な話だが、売り言葉に買い言葉でなんだかんだと乗ってくるストックが、だ。
この余裕の無さの原因は何なのか。
常が余裕綽々というわけでもないが、少なくともお互いに口答えする程度が彼らの常だ。
しかしそれが今日は何かが違う。
そんな状態でロッシュがストックを拒むことなど出来るはずがない。



最初はロッシュは変な顔をしたが、ストックが頼み込むと今度は頷いてくれた。
やるなら早くやるぞ、とロッシュは早速寝台の方へ戻る。そして寝間着を脱ぎ始めた。
ストックもさっさと寝間着を脱ぎ捨てる。
ロッシュが下着まで脱いだところで、ストックはロッシュの背中に触れた。
「あとちょっとくらい待てねえのか」
苦笑するロッシュの気配が伝わってくる。
ロッシュは片手で器用に脱ぎ散らかした服をまとめてから、ストックの脇をすり抜けて寝台へと上がった。
「ストック?」
すぐに後を追ってくると思っていたのだろう、ロッシュが声を掛けて来る。
ストックはその言葉で漸くゆっくりと寝台に移動した。
「ぼーっとしすぎだ」
「そうかもしれない」
「……そうかもしれないってなあ」
今まさに覆い被ろうとしたところで、ロッシュの右手が頬に当てられ、べち、と鈍い音を立てた。
「本当に大丈夫か」
「……ああ」
ストックが僅かに口の端を歪めると、ロッシュも同じような表情をした。
腕が後頭部に移動し、髪を掻き混ぜられる。ストックはそのまま顔を近付け、ロッシュに口付ける。
ロッシュは抵抗せずに舌を差し込み絡ませてきて、ストックは自然と目を閉じた。
いつもの習慣として口付けているときは目を閉じずそのまま相手の顔を見ているのだが、今日に限って言えば目を開けているのが辛い。
何も悪いことをしているわけではない、はずだった。確かにこんな夜中にロッシュを起こし、事を強要しているのは申し訳ないと思っているし、行為自体もロッシュが許してくれたからこそ出来ることだがそれも今までと同じだ。
昨日と今日で変わっていることなど何もないのに、こうやってロッシュの身体に触れているのに、何だろうかこの冷えた感覚は。
また手が汗で湿って来た。
これは冷や汗だ。



ストックの様子がやはりおかしい。
普段のストックならば行為が始まった途端に嬉しそうな表情こそ見えないものの、嬉しそうな雰囲気を漂わせながらあれやこれやと手を出してくるというのに今日は何だかぼやっとしている。
ロッシュは再び手を伸ばし今度はその額に触れた。
額は熱くは無い、というより寧ろ冷たいくらいだ。汗を掻いている。
顔を顰めつつ今度は腕を背に回した。同じように体温を感じてみるが、これも普段よりも冷たく感じる。
ひょっとしたらただの気のせいかもしれないが、今のロッシュには到底そうだとは思えなかった。
ロッシュは傍らの布団を片手で掴むと乱暴にストックの背に掛けた。
「ロッシュ」
「寒いんだろ、温まるまでそれ被っとけ」
「…………」
ストックは抵抗せずに受け取り、自分の身体が包まるよう布団を掛け直した。
改めてストックはロッシュに接近して一度だけ触れるような口付けを交わし、その後舌を挿入してきた。
ロッシュも後頭部に手を回しそれに答えてやる。暫し湿った音を響かせた。
ストックが首筋に唇を落とし、対するロッシュはその首へ手を滑らせる。
ストックの手はやはりどこか冷たかった。
それをどうにか暖めてやりたくて、ロッシュはストックの左腕を取った。
それまで左手でバランスを取っていたストックは体勢を崩しかけるが、なんとか右手の方に力を入れて事なきを得た。
「何を……」
答えずに、左手を己の右手で握り締める。
やはり冷たい。
しょっちゅう手を繋ぐわけでもないから平均的にいつもどの程度なのかもわからないが、とにかく今冷えていることはわかる。
両手を使って擦り合わせることは不可能だから、せめてそれぞれの指と手のひらを駆使して擦ってやった。
気づけばストックが目を細めてこちらを見ている。
軽く微笑んで擦ってやれば、さらにストックが目を細めた。申し訳無さが全面に出ている顔だ。
「何つー顔してるんだおまえは」
「……うるさい」
ストックは一度ロッシュの手を振り切ると、脚だけで身体を支えられるようにロッシュの脇に改めて両脚を置いた。
半ばロッシュを跨ぐような体勢になる。
その姿勢からストックは両腕でロッシュの上半身をまさぐった。
まだ完全に温まってはいないものの、先ほどよりは幾分和らいだ温度を持った指で肌を撫でられてくすぐったい。
ロッシュも空いている手をストックの顔に寄せ、首筋から肩、脇腹へと順に触れた。
ストックが静かに大きく息を吐き、徐々にストックの体温が上がっていくのがわかる。
それを隠したいのかそれともただの意地か、ストックはロッシュが触れたのと同じようなところに触れてきた。
特にロッシュの左肩のガントレットの接続部分は念入りだ。
その部分は金属に覆われているから、直接的にロッシュの素肌というわけではない。
にも関わらずストックは念入りに何度もその部分に触れている。温めているつもりだろうか。
そこには冬の凍傷や過度の暑さによる熱傷を防ぐための自動温度調節機能が働いていて、金属はほぼ肌に近い温度に保たれているはずなのだが。
しかしロッシュは行為を止めることはせず、代わりにストックの背に腕を回し撫ぜてやった。
ストックが今度は首筋に顔を埋めてきた。ロッシュも腕を後頭部へと移す。
暫く舐められていたかと思うと、ストックは少し身体を離し隙間からロッシュの中心へと手を這わせた。
「ん」
徐々に高まり始めていたそこに触れられて、口から息が漏れる。
ストックは口にこそ出さないものの、嬉しそうな雰囲気を纏わせてさらに刺激を与えてきた。
そうはさせるかとロッシュもストックの中心に急いで手を伸ばし、触れた瞬間その手が止まった。



ストックはロッシュのものを片手で扱きながらも、どこか遠いところにいる気がした。
確かに目の前にいるのは親友のロッシュで、手には熱を感じる。生きている証拠だ。
ロッシュの息遣いも聞こえるほど密接しているし、おかしいところなどどこにもない。
あるとしたらばこれが夢である可能性だがそれも無い。ストックの頭は冴えている。冴えすぎて、冷たすぎるくらいだ。
触れたロッシュのものが熱い。
それを手のひらと指を駆使して刺激していると、ロッシュも同じようにやり返してきた。
「なあ、お前……大丈夫か」
「何がだ?」
「まあ、なんだ。気づいてねぇなら良いんだが」
ストックが問い返すとロッシュは曖昧な返事をしたが明らかに戸惑っていたので、ストックはもう一言付け加えた。
「……元気が無い、とでも言いたいんだろう」
「なんだ、わかってたのかよ」
「当たり前だ。己の身体をわからなくてどうする」
「なら良かったぜ」
心底安心した様子のロッシュに、ストックは少し不満を覚えてしまった。
「それで安心するのかお前は」
「い、いや、そういうわけでもねえが。とりあえず刺激すりゃ反応すんだから、まだ大丈夫だろ」
「それはまあそうだが……」
ロッシュの言う通りではあるのだが、もう少しくらい気にしてくれたって良いのではないかとストックは思う。
とは言っても、それはまたロッシュを心配させる種にしかならないのだ。
これで良いのかもしれない。そうストックは思った。
「……すまない、余計な手間を掛けさせて」
「今更何言ってんだよ」
気にすんな、とロッシュは中心から手を抜いた。
そして己の先走りで汚れた手を退けて、肘から先の部分でストックの頭を乱暴に撫でた。



ストックの指がロッシュの中に入ってきた。
違和感が消えることは恐らく一生無いのだろう。いくら慣れたといっても違和感はいつになっても消えない。
「大丈夫か」
心配そうに覗きこんでくるストックに、ああ、と返事をして後ろの違和感に耐える。
ストックはいつもより随分と余裕がないようだった。
常ならば、こんな時は申し訳無さそうにしながらも何かを期待するような、そんな目で見ることが多かったのだが今日は違う。
見えるのは焦りだ。
しかし何に対して焦っているのかはロッシュにはわからない。
先ほどから何度も落ち着かせようとしているが、効果は薄かった。
ならば、ストックの思う通りにやらせてやった方がいい。そう思うのだが、どうしてもその表情が気になってしょうがない。
先ほどのストックの中心に触れたときのことも含めてだ。
ストックがこうして身体を合わせている時に昂っていないことなど、今までは一度もなかった。
普段から無表情で静かな印象を与える男だから性欲も薄いのかと言われると、そうではない方のストックだ。
同性の大男に対してどうしてそんなに昂れるのか疑問に思ってはいたが、ストックは常に当然のような顔をしていた。
ところが今日は違う。
夜中に突然起き出したことと関係があるのだろうが、本人が何も言わない以上問い詰めるわけにもいかない。
そんなことに不安を覚えるのも妙な話であるが、ロッシュはとにかく心配だった。
だから一度手を引き抜いて、腕を背に回した。
背中の一番広いところに手を置いて、ぐいと抱きしめる。
ストックがそれに気づいて、珍しく殊勝な表情で顔を寄せてくる。
お互い夢中で舌を絡ませた。
暫くそうしてから、ストックが少し身体を離した。
ロッシュはすかさず言った。
「どこへ行く」
「どこへも何も……香油を持ってこないと、おまえが辛いだろう」
驚いた様子でストックが答えた。ああ、そりゃそうか、とロッシュは間の抜けた声を出した。
「何だ、変なやつだな」
「今日のおまえほどじゃねえよ」
「そんなことないだろう」
ストックは苦笑しながら、瓶を手に戻ってくる。



「もういいか」
「……ああ」
ストックは不機嫌そうに言うロッシュの返事を待ってから、挿入を開始した。
息を詰めるロッシュを宥め、出来る限りゆっくりと中へと入っていく。
早く早くと急く心をストックは必死で抑えた。
やっとの思いでそれを収め、ストックは息を整えた。
ロッシュも浅い呼吸を繰り返し、落ち着かせている。
「大丈夫か」
ストックは自分の方が無事では無さそうな声音でロッシュにそう尋ねた。
すると、ロッシュは口の端を歪ませ、苦笑いを返してきた。
「おまえのが明らかに大丈夫じゃねえだろ」
「…………」
そんなに自分は変な顔をしていたんだろうか。
ストックはロッシュに無駄な心配をさせてやしないかと、逆に心配になった。
今日のことは明らかに自分の夢が原因だ。
現在はちゃんとこうして生きているのに、何を贅沢を言っているのか。
「何でそんなきつそうな顔してんだよ」
ロッシュも薄々気づいてはいるはずだ。
そして知っているはずだ、ストックがそれを言えないことを。
だから今回もストックは誤魔化してしまった。
「それはお前の締め付けが」
「あのな……まあ、そんだけ冗談言えれば大丈夫か」
軽く頭を小突かれる。
ストックは一瞬だけ表情を緩めた。
特に良い方の感情を表に出すのが苦手なストックに意図的に出来る所作では無い。
しかし少しでもそれが伝わることをストックは祈った。



それから少しずつストックは動き始めた。
ゆっくりと、腰を前後させる。
その際にロッシュのものを刺激するのも忘れない。
お互いの息が上がってくる。
「一応念のため言っておくが」
ロッシュが右腕をストックの後頭部にやって、髪の毛を引っ張りつつ呟いた。
「……何だ」
鎖骨の下辺りに唇を寄せながらストックは応じる。
少しの間があってから、ロッシュは言った。
「きついのはこっちだ。別に耐えられる程度だがな……」
ストックは大真面目な顔をしてそれに応じた。
「俺だってきつい」
「気持ちいいの間違いだろうが」
「おまえは良くないのか」
「悪いとは言ってねえよ」
「素直に良いと言えば良いだろう」
「……誰が言うか!調子に乗んな」
ロッシュはストックの頬を思いっきり抓った。いつものようなやりとりだ。
「あーもうさっさと終わらせろって」
「……わかった」
再びストックはゆっくりと腰を動かした。
ロッシュの逞しい足を持ち上げて、己の腰に絡ませる。
お互いの息が荒れ始めるにつれて動きが激しくなる。
先ほどまでの締め付ける痛みが心地良いものへと変わってきた。
同時に頭が熱を持ち始める。余裕がなくなって、何も考えられなくなった。
今目の前には痛みからか快楽からか、眉を顰めているロッシュがいる。
そのロッシュに最大の我侭を聞いてもらい、こうして身体を繋げることを許してもらっている。
「……っストック……」
ロッシュがストックの名を掠れた声で呼んだ。
何も恐れることはない。
これが全てで、これが現実だ。
次の瞬間、ストックは大きく腰を突き入れてロッシュの先端を擦った。
そしてロッシュに体重を預け、達した。



「落ち着いたか」
終わってもストックは中々離れようとはしなかった。
もう一度シャワーくらい浴びたかったが、ここまでくっつかれると引き剥がすのも逆に気が引ける。
だから、そのままにさせておいたのだが。
「……ストック?」
返事がない、と思ったらどうやらそのまま寝入ってしまったらしい。
人に体重を預けたままというのは大変寝にくい。
そもそもそれなりの体重があるロッシュからすれば相手を押し潰すことになってしまい、考えられないことだ。
「ったく、しょうがねえな」
一つ舌打ちをして、ロッシュは乗っかったままのストックを横に寝かせた。
さすがに気づかれるかと思ったものの、目を覚ます様子はない。
布団を上から被せてやって、ロッシュは考える。
シャワーを浴びるか、このまま寝てしまうか。
すると布団の隙間からストックの腕が伸びてきて、ロッシュの左腕を掴んだ。そして下へと引っ張られる。
どうやら寝ろということらしい。
「起きてんのか」
「…………」
しかしまたしても返事はない。
寝ぼけているのか起きているのか。
まあどちらでも構わないだろう、ストックの要望は明らかだ。
今回も親友の我侭に応えてやることにして、ロッシュは大人しく親友と同じ布団に潜りこんだ。



平上作
2012.06.03 初出

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