「お前も習得してみるか」

ストックがいきなりそう言い出したのは、今まさにこれから抱き合おうとしていた時だった。
お互い服を脱ぎ捨てて、肌を重ねている。

「は?何の話だよ」

ロッシュはストックの意図を図り損ね、問い質す。ストックがいきなり妙な話をするのは今に始まったことではない。ロッシュはストックの次の言葉を待ち、そしてストックはおもむろに口を開き、

「少しあっちを向いてくれないか」
「?ああ」
「こういうことだ」

ロッシュの目線がストックからあらぬ方向へ向いた瞬間、目の前からストックの姿が消え失せた。

「な…!」
「どうだ」

そして次の瞬間にはまたロッシュの前にストックの姿が現れた。

「これを学んでみないか。教えるぞ」
「教えるってな……それよりどこで覚えたんだそんなもん」
「……ハイスから盗んだ技だ」
「じゃあ情報部の技術ってやつか」

なるほどな、とロッシュは納得した。しかしそれを学んでどうするというのか。

「俺に習得できんのか」
「あぁ、おまえなら問題ないだろう」

元々優れた軍人であるロッシュならば、そんな時間はかからないだろうとストックは踏んでいるという。

「まあじゃあそれができたとして、何がしたいんだお前は」
「勿論決まってるだろう」

言ってストックはロッシュの首筋に口を這わせた。

「はぁ?」
「場所を選ばなくても済むだろう。時間さえあればいつでも」
「……」

要するにストックが言いたいことというのは。
互いに完全に気配を消す技術を習得すれば、いつでもどこでも抱き合えると。
それがロッシュの頭の中で合点がいった時、迷わず拳を振り下ろしていた。

「馬鹿野郎!そういう問題か!」
「……っ痛い」
「当たり前だ馬鹿!」

ストックの頭に見事命中した手をまだ握り締めながらロッシュは畳みかける。

「あのなあ、ばれなきゃいいって問題でもねえだろうが!」
「……いい案だと思ったんだが」

しかし真顔で残念そうな顔をするストックを見ていると、ロッシュとしても少し申し訳ない気持ちになってしまう。
今日の逢瀬にしろ、前回から一ヶ月ほど経ってしまっている。
ストックも大概忙しい身だが、ロッシュの方がそれをさらに上回る。

「……まあお前がそこまで思い詰めるのも俺のせいだからな。すまん」
「いや、そんなことはない」

思い詰めたその内容が酷すぎるというのは伏せておく。

「とりあえず今夜は何もねえから安心しとけ」
「あぁ、安心する。今夜は寝かせないからな」
「やる気満々なのは良いが、少しくらい寝かせろよな……」
「冗談だ」
「……お前の冗談は本当にわかりづらいな」

ストックは微かに笑みを浮かべ、ロッシュの唇を塞ぎにかかる。ロッシュもそれに抵抗せずに、ストックの後頭部に腕を伸ばした。



平上作
2011.06.17 初出

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